「シベリヤ抑留」について考える             61期 軍76-1杉村俊一

 

私の様な若輩に、諸先輩方が多数ご出席になる栄光ある本会に於いて、お話申し上げる機

会を与えて頂きまして、恐縮しておりますし、御関係の皆様に厚くお礼申し上げます。

 

私も四年強の抑留経験者であります。シベリヤ抑留者全体に対して10%、私達のいた収

容所では30%の仲間が亡くなりました。シベリヤの場合は今年までに10%強のご遺骨

が収集されているに過ぎませんが、私達のいたブカチャーチャ炭坑の3つの収容所に限っ

て申しますと、収容所の所在地の2ケ所は勿論、病弱患者が転送になった先4ケ所の病院

の墓地での埋葬場所まで、全部の御遺骨を収集し無事に日本に帰還して頂きました。更に

収容所のあった場所の埋葬跡地2ケ所に慰霊碑と州都のチタ市には慰霊碑公園を建設しま

した。最近では吾が事畢んぬの心境です。私の懸案事項は全部終わりました。

 

帰国・復員した時から今日まで聞かされてきました事の中で、日本を世界の尺度で見れば

、犯罪者、侵略者、罪人国だとして、戦勝国が自分達の都合の良い様な一方的な宣伝ばか

りを誇張して来たことに付いて、祖国、日本の民族、故郷、家族の為に生命を捧げられた

諸先輩、戦友、幾多の同胞の犠牲は何だったのか、無駄・犬死だったのか、憤慨に耐えな

い、悔しくてたまらない毎日でした。

 

本日は次の5点に付きまして時間の許す限りお話したいと思います、うまく出来ますれば

幸甚です。不慣れですので要点は本稿に書いておきました。宜敷くお願いします。

  (1)王道楽土を目指していた満州国

  (2)日本の行った大東亜戦争は、侵略戦争ではなかった。

  (3)私達が、ポツダム宣言に違反してソ連に抑留されたことは、不当な行為であり

     承知でやったソ連と承知していて黙認したアメリ力が原因、これが抑留の経緯

  (4)シベリヤ抑留の実際体験

  (5)帰国後の慰霊活動、墓参、遺骨収集、慰霊碑建設、その後の維持関係。

 

(1)王道楽土を目指していた満州国

此れは私だけの主観であり確信でありますのでご容赦下さい。その確信は満州国軍官学校

に進んだから出来たのであります。私が入校してからの或る日、連長(中隊長)が「君達

は軍人になったのだが、今何を一番考えて居るか、死ぬ事ばかり考えて居るのではないの

か」「それは間違って居る」その通りだった私はドキッとしました。死ぬ事を考えてはい

けないのなら、何を考えれば良いのか、判りませんでした。死のみを考えていました。

「君達は死ぬ為にやって来たのでは無い、君達は戦争に勝つ為に軍人になったのである」

そうだその通り。「君達はこの国・満州国の将校として、兵を指揮して戦って、戦争に勝

利する為に採用されたのである」「戦争に勝つと言う事は格好ではない、卑怯と言われよ

うと何といわれようと、何をしてでも生き延びて、どんな事があっても、最後の一人にな

っても勝ちぬかねばならない」「但し、一つ条件がある。君達が指揮して戦う兵は、日本

人ではない、日本語の通じない異民族の兵隊なのだ、しかも、自分より年長の者も含まれ                 

ている」「弾丸は常に前からだけ飛んで来るではない。後ろからも横からでも飛んで来る

ぞ」「人は命令だけでは動かない」「死ぬと命令されて何処にハイと言って死ぬ奴が居る

か」「日本語の通ずる兵でもなかなか言う事はきかんぞ」「君達は何を以て人を動かすか

、ともに命がけで力を合わせ、体を張って戦ってくれるようにするには、どうすれば良い

のか」この話は私にはショックでした。予科生徒になったばかりの若輩でした。カルチャ

ーショックに当たるでしよう。私が軍服を着るようになって、始めて何かを考えるように

なりました。連長の答えは「人を動かすことが出来るのは、唯一つ、其れは徳である。徳

のみが人も兵も動かすことが出来るのだ」でした。

満州国の国是は「一徳一心」でした。私は新しい国を興し、五族協和で努力されている有

様を好ましいと思うようになりました。日本陸軍殊に関東軍の指導が良かったとは思いま

せん。それは帝政を採用したことです。しかし、欠点や人材に恵まれない事はあっても、

満州国は王道楽土を目指していました。日本の意図したことが侵略・収奪ではなく混合民

族の新体制であったし、それまでの西欧列強の様にではなく、治外法権や租界を撤廃して

建設と投資をしていたのです。情熱と投資、建設はしたけれども何も収奪していません。

敗戦でその成果の財貨はソ連がゴッソリと何もかも根こそぎ掠奪して行きました。

私の確信の証しは、今だに続いている残留孤児の帰国や、育ての両親の来日の事実であり

ます。近くの南北朝鮮はどうでしょう、此の世界の歴史でこんな例は見た事も聞いた事も

ありません。そんな出来事が、非道・迫害・抑圧ばかりされていたのが全部真実であり、

鬼の日本人がやったことの全否定が背景で、到底 恨み骨髄と考えるような人間関係の中

で起こり得たでしょうか。これ程の事後の肯定はありません。 50年間もアメリカが言

う通りで我慢してきたのも、もうそろそろ止めても良いのでしよう。

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